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大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)5931号 判決

原告

岡田勘治

右訴訟代理人

上田稔

被告

舟坂康雄

右訴訟代理人

武藤達雄

外一名

主文

大阪簡易裁判所昭和四九年(ロ)第二六五〇号約束手形金請求督促事件の同年九月三〇日付仮執行宣言付支払命令を取消す。

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因二の事実は当事者間に争いがなく、〈証拠〉によると同一、三の各事実を認めることができる。

二抗弁について判断する。

〈証拠〉によると、卓和建設は月カ瀬カントリークラブから水道設備の工事を請負うに当り、その資材購入資金として原告から八〇〇万円を借受けることとなり、利息七〇万円を含めてその支払のため本件手形(甲第一号証)および金額四五〇万円でその他の手形要件が右手形と同じ約束手形一通(甲第二号証)を振出したのであるが、その際被告は卓和建設の原告に対する右各手形上の債務を保証する趣旨で右各手形に裏書した。卓和建設は原告が本件手形を満期の日に支払場所で支払のため呈示したことにより、とりあえず銀行協会に異議預託金を提供してこれを不渡りにしたが、その後原告に対し本件手形金中の七〇万円を支払つたうえ、原告から右手形を含む前記二通の手形について一カ月間の支払猶予を得、これに基き原告に対し金額三五〇万円、満期昭和四九年一月二八日、支払地振出地大阪市、支払場所大阪殖産信用金庫北支店、振出日昭和四八年一二月二七日、受取人欄白地なる約束手形一通(乙第一号証)および金額四八九万円、支払場所大和銀行天六支店その他の手形要件右に同じ約束手形一通(甲第五号証)を振出し、前記預託金については原告の同意の下に異議解消届を作成してこれを取下げた。しかしながら被告は右書替による新手形中、本件手形に対応する分については裏書をしなかつた事実を認めることができる。ところで一般に書替手形は旧手形を現実に回収する等特別の事情のない限り延期手形であり、右書替によつて旧手形上の債権債務関係は消滅せず、旧手形上に保証裏書をした者は書替手形上に保証裏書をしなくても、なお右裏書責任を免れないものであるとしても、以上認定の事実、特に、本件手形の書替についてはその不渡後振出人である卓和建設において一部手形金を支払つてこれをなしていること、二通の手形の書替中本件手形の書替についてだけ被告に裏書をさせていないこと等の事実に、被告が本件手形を含む二通の旧手形に裏書をするについては本二項後記中段で認定の経緯が認められること等の事実を合わせ考えるとき、本件書替手形は原告と卓和建設との間においては単なる延期手形にすぎず、これによつて同社の本件手形上の債務は消滅しないものであつたとしても、原告は卓和建設が右書替をするに当り被告の本件手形についての裏書責任を免除したものというべきである。

〈証拠〉には、本件手形は書替えたが書替後の新手形は被告主張のものではなく、それには被告の裏書がある旨、また原告(第二回)本人尋問の結果中には、原告は右書替によつても被告の裏書責任を免除してなく、新手形に被告の裏書がなかつたので被告および振出人に対しこれを要求していた旨前記認定に反する部分があるが、前記採用の各資料によると、本件手形等書替前の手形に被告が裏書をしたのは原告においてこれらを銀行で割引くために被告の信用を供与したものであつて、原告が被告に対してその裏書責任を追及することには特に重きを置いてなく、右書替に当つては新手形につき旧手形に存した右必要が既になくなつていたため被告の裏書を強いて要求していなかつた事実を認めることができるのであつて、右事実に照らし前記各供述部分はたやすく信用できない。また原告(第一回)本人尋問の結果中にも前記認定に反する部分が散見できるが、右も前記採用の各資料との対比において信用できない。

右のとおりであるとすれば、被告の原告に対する本件手形上の債務は右書替に当つて既に消滅しているものというべきであつて、抗弁二は理由がある。

三以上、被告の抗弁二は理由があるので、その余の点について判断するまでもなく原告の本訴請求は失当として棄却すべきところ、主文記載の仮執行宣言付支払命令はこれを認容するものであるから、右命令を取消したうえ本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。 (高田政彦)

約束手形目録

金額 四二〇万円

満期 昭和四八年一二月二七日

支払地 大阪市

支払場所 大阪殖産信用金庫北支店

振出地 大阪市

振出日 昭和四八年一一月二八日

振出人 卓和建設工業株式会社

受取人 被告

裏書関係 被告、原告の順次白地裏書

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